技術書典を知ったきっかけ
1年半前(技術書典14)にサンシャインに立ち寄ったらやってたのがきっかけ。
アプリの仕組みやサークルの配置、人の動線に至るまでよく考えられたイベントだな、技術書版コミケのようなイベントがあるんだ、と思いました。
自分で一冊書くのは無理でも、会社の人と一緒にいつか合本を作れたら楽しいだろうなー、でも執筆に興味ある人いないだろうなー、会社のブログ書いてるのも自分だけだしなー、とぼんやり思っていました。
私はエンジニアになる前は出版社で営業をやっていたので紙の書籍については少し思い入れがあります。(「あそこだけはやめろ」と言われるような業界でも有名なブラックな語学系出版社で心身ともに疲弊して辞めて今のIT系の仕事に流れ着いた過去があるのでいまだに乗っている電車が飯田橋駅を通過するたびに体がこわばります。当時フリーター職歴なしだった自分を採用してくれた間口の広さには一応感謝しています)
申し込み
9/2にツイッターを眺めていたら、もうすぐ技術書典の申し込み締め切りというアナウンスと「申し込みました!」というツイートが連続して流れてきて、そうか誰でも申し込んでいいのか、それならと記念受験のつもりで申し込みボタンをポチりました。
ただ申し込み時に何についての本を書くかをあらかじめ書かなくてはいけません。そこで飽きっぽい自分が毎日取り組んでいた水耕栽培について書くことにしました。園芸ネタだけでは弱いと考えて、ちょうどラズパイを使った温湿度などのモニタリングをしていたので、そこを押し出せば、悪くないかもと考えながら申し込みフォームを埋めました。
締切20分前の23:40分に申し込み完了。
当選通知
1週間後の9/8に当選通知がきました。嬉しい気持ち半分と果たして自分に本が書けるのかという不安半分がありました。
私は仕事を掛け持ちしていて忙しいので1週間のうちこの時間なら確実に空いている、というのはなく偶然生まれた時間に書き上げるしかありません。
フワちゃんのスタイリストとジャンポケ専属のロケバスの運転手をしている関係でなかなか執筆の時間がとれませんでしたが、奇跡的に仕事に空きができたので、一気に書き上げていきました。
しょうもない冗談はさておき、この期間で一番きつかったのは、誰か知らない人の入稿しましたツイートを目にすることでした。例えばこんな感じのです。
11/3がオフラインイベントなのに、10/11時点で表紙こみで書き上げてる。今時の若者優秀すぎる。恐怖…
それでもなんとか書き上げることができたのは、以下のことを最初にやっておいたことが功を奏したからだと思います。
- 技術書典についての過去のYouTubeアーカイブ視聴(大雑把なスケジュールの把握と締切設定)
- 技術書をかこう! ~はじめてのRe:VIEW~ 第3版 を読む
- Re:VIEWを使った執筆環境の構築
中でも早いうちにRe:VIEWという素晴らしい組版ツールに出会えたことは振り返っても良かったと思います。
書籍の本文のデザインはAdobeのInDesignを使用するのが当然で、Wordやフリーソフトだとどうしてもチープな感じが出たり痒いところに手が届かないものという認識でしたが、商業出版にも耐えられるレベルで入稿データを作成できるのは驚きでした。
また、VSCodeではなく、AIコードエディタのCursorで書いたことによって多くのメリットも享受できました。これについては改めて別の機会に紹介したいのですが、次のようなメリットがありました。
- 文章の続きを勝手に補完してくれる
- もちろん検討はずれな提案の方が多かったですが、文章の最後の締め表現って意外と脳に負荷がかかるので、文末はTabキーを押して終えることが多かったです。
- 表の修正を1箇所したら、以降の修正の提案をしてくれる
- 例えば購入機器の一覧表を2000、3500、4000…のように並んでいるところをカンマ区切りの通貨単位付きに修正しようとを2,000円に書き直したら、以降の項目の修正もTabを一回押すだけの提案をしてくれます(言葉で伝えることの限界を感じますが、こういうのめちゃくちゃ気が利くなって思いました)
本文執筆完了
大体書き上げた後は、校正作業です。いくら気をつけて書いたとしても、おかしな表現や誤字脱字は発生します。別の形式で出力して読むことで、おかしなところ気づきやすくなります。
これは便利だと思った校正の方法があるので、ついでに紹介したいと思います。
- Re:VIEWを使ってPDFを出力
2. 出力したPDFをAirDropを使ってiPadに転送
3. iPad側でGoodnotesというノートアプリに読み込ませる
ページごとに出力されるので、気になった箇所をどんどんチェックする
以上です。iPad miniくらいのサイズがねころびながら出来て最高でした。
文章以外で苦労した点といえば、水耕栽培装置の図解をする都合上、大量のイラストを作成しないといけなかったのですが、祝日を丸一日使ってパワーポイントで作成しました。私はパワポをAdobeのイラレ、Canva、Figmaに並ぶデザインツールと捉えています。
写真などは、新規で撮影したものもありましたが、過去にTwitter(現X)にあげているものをかなり流用しました。
こまめに状況をつぶやくことが、後々思いがけない形で自分自身を救うことになるので、今後もちまちま発信続けていこうと思いました。
最後にRe:VIEWに組み込まれている校正支援ツールprhで文章表現を整えて本文データは完成
表紙作成
日光企画は表紙データをPhotoshopで受け付けているのですが、操作がわからなさすぎて、パワポで表紙作成→PDF出力→フォトショに貼り付けという荒技で乗り切りました。Photoshopはサブスクで1ヶ月だけ契約しました。必要経費とはいえ高い。
宣伝
届ける工夫をなぜか1年前の技術書典で購入していてその時は実はしっかり目を通していなかったのですが、再度読み返しました。
自著を何度も宣伝する行為ってあざといな〜という印象を持っていたのですが、「販売部数という数字を積極的に追い求めると拝金主義に感じてしまう、謙虚さゆえに控えめに宣伝する人がいる、しかしその情報を必要としている人に届けたいという気持ちにネガティブな要素はあるのか?」的な文章を目にして考え方が変わりました。
そして毎日こまめに「届ける工夫」に書いている通りのやり方を実践しました。
すると
本当にフォローが増えたりいいねのリアクションが増えていくのを実感し伝えたい人にじわじわと伝わっていくのを体感しました。実際にTwitter見て買いに来ましたって人もいて良いことづくめでした。「届ける工夫」、まじ名著。
何より技術書典ジャストミートの内容なので、本を執筆中の時点での告知の仕方まで書いてくれていて、今後も技術書典の度に読み返すことになりそうです。
入稿
何が普通かわからなかったので、各方面でおすすめされていたバックアップ印刷所なる日光企画でデータ入稿しました。
ページ数ごとに値段が違うので、見積もり作成がギリギリまでできず、なかなか入稿作業に手をつけられなかったので不安が大きかったです。
本文データはRe:VIEWの技術書典レポジトリを使用したので不安は少なかったのですが、表紙データは指定のフォーマットでフォトショを使って入稿しないといけないので、不安大でした(背表紙の計算にひとスキル要求されます)。
入稿後、日光企画の人から電話があり、「ダメダメだったので直していいですか?」(要約)と伝えられ、秒でオネシャスと言いました。
これまでプリントパックやラクスルを使用した入稿は経験があったのですが、同人誌印刷は今後も日光企画を使っていこうと心に決めています。
前日
ちょうど雨で外に出かけられなかったのもあって設営のリハーサル。
初めて遠足に行く小学生みたいな気分でした。
設営についても「届ける工夫」に載っていたテクニックを全面的に参考にしました。
当日
自分でも馬鹿かと思いますが、興奮しすぎて2時半に起きました。
それまで自分のことで精一杯で、近くにどんなサークルがいるのか知らなかったので、技術書典季報を購入しました。他のサークルの書籍を物色し、時間があったら買いに行きたい本をリストアップしていました。すっごい楽しかったです。
自宅が会場であるサンシャインまで15分ほどという地の利を活かし、出展者の入場時刻である9時半ギリギリまで自宅のソファで期待に胸を膨らませ続ける幸せな時間を過ごしていました。
当日の出来事はちゃんと書くと長くなりそうなので箇条書きにします。
- 運営の方々が朝早くから会場入りして設営をしているポストを見て感謝の気持ちでいっぱい
- 会場入りした時の空気感、好き。学園祭の準備期間を思い出しました。
- 自ブースの場所「う10」を探す。端っこでした。あとから振り返ると、出入りがしやすいし、荷物も置きやすいしで、良い場所でした。
- 長机の下に日光企画と書かれた段ボールがあり、そこでようやく自分の書籍と初対面。この印刷所から会場への搬入の仕組み、ありがたすぎる。
- 感動に浸る間もなく設営準備を進める
- 手ぶらセット超ありがたい
- 「あの布」を買うことを検討したけど、滅多に使う機会のないものを購入するのには躊躇いがあったので、無料セットの中にテーブルクロスがあったのにはありがたいの極みでした。
- 隣のサークルの人に挨拶。第2回から参加されている超常連さんでした。
- 1時間ほどで設営完了。慣れなかったので思いの外時間かかりました
- 設営中に本を机の上に並べていると、名前も知らない方が立ち寄り、買っていきました。あっさり初売り上げ。
- プロフィール帳を埋めました(他の人のもじっくりみたかった)
- 開場までの時間、ゆっくり全体を歩けるのは今だけかも、と思い前日に書籍を購入してくださってツイートもしてくださったkaitouさんのブースに挨拶に訪問。今思えば開場すると終了までひたすら忙しかったので英断でした。互いに頑張りましょうとエールの交換。
社交辞令ではなく、出品されていた本に興味があったので、初購入。 - 戻る時に何冊か買いたいものリストにあった本を購入。
- まもなく開場、持ち場で待機せよという旨のアナウンスが流れ、自席に急いで戻る
- 戻る途中にチラ見したMochikoAsTechさんのブースが2,500冊の本と段ボールで要塞と化していて戦慄
- Mochikoさんに「届ける工夫」の感謝を伝えたのですが、初対面の人間が早口で捲し立てたので、キョトンとした反応でした。いずれゆっくりお話しできる立場になりたい!
- 11時開場のアナウンス。拍手と共に高揚感が高まる。
- 10分後、初めてアプリを介して本が売れる。楽さに感動。
- 100冊刷ったので全部売るためには1時間16冊ペースで売らないと、てことは4分弱に一冊売らないといけないので、厳しい戦いかも、と思ったら40分で16冊売れた。
- 今までやってきたことは間違ってなかったと感傷に浸る
- 本を手に取ってくれた方とはできる限り会話。ここからたくさんの学びがありました。
- 細菌・カビの研究をしていたという人の質問にうまく答えられず
- EC値の測定について聞いてきた詳しい人もいた
- 紙の本で500円はありがたいと言われて初めて、自分の本が格安だと気づく
- 訥々と書籍のプレゼンを続けた結果ようやく買ってくれる人がいたかと思えば、迷いなく会話なく買って行かれる方もいた
- 宇宙農業についての本を出した人、新潟の農業関係の仕事をしている人、家族づれ、迷い込んだような方、本当にいろんな人がきた
- プログラミング言語やハードウェアの書籍が並んでいる中、突如としてレタスの本が登場するので、「こんな本もあるんだ」「これも技術なんだ」とネタ枠として面白がって買ってくれる人が多かった気がする。技術書典の裾野を広げられた気がして嬉しかった。
- 運営の日高さんがブースに立ち寄ってくれて、しかも購入してくれて、天にも昇る気持ちでした。こんな本でも技術書典の守備範囲ですか?と恐る恐る質問したところ、「これも十分科学だと思いますよ」、との言葉をいただき、今思い返しても嬉しいです。
後日、技術書アワードで私の書籍を紹介いただいた際、ラズパイが壊れた話とか、電気代の話とか、書籍を読まないとわからない情報を話されていて、「こんなに忙しい人が私の本に目を通してくれたんだ」とさらに感動しました。 - どこでこの本を知りましたか?と聞くとWebで見て、という人が多かった。コメントせず、ツイートにいいねもつけないけれど気になっている潜在層が少なからずいることを知った。よく考えれば自分も気になっている本の人にわざわざ事前に何かしらアクション起こすかといえば、まあいいねつけるくらいかな、と思い返して納得。そういった人と会って会話ができるのがオフライン参加の醍醐味。
- こちらが一生懸命つたえたいことと、向こうが知りたいと思っていることが一致しないということが多くて面白かった。
- 質問として多かったのが「レタス以外でも作れますか?」と言うもの。はい、できます。次はハーブ編を書きます、とその場で決めて答えてました。その言葉が今私を縛っている。
- 知り合いが水耕栽培やってますと言われることも多かった。知り合いに似てます、と言われた時と同じくらい一瞬反応に困る
- 人が多い時間帯はワンオペは結構辛い。
- 見本誌2冊用意していて良かった。ピーク時はそれでも足りず、売り物を渡して5人くらいが立ち読みする時間があった。
- おにぎり、カロリーメート、ウィダーインゼリー買っといてよかった
- 何冊売れたかチェックする暇もない。カウンター用意しとけばよかったかも。
- トイレ行く時間がない
- 終わるまであっという間
- 出展側の人は青いブレスレットをしていたので、ブースの場所を聞くようにしたけれど、訪問する時間はなかった。き08の人すいません。
- 当日売れたのが多分94冊(手元に残ったのが余丁をのぞいて6冊だったので)
- 献本したり、相手サークルの本と交換したのが1冊ずつ。なので純粋な売り上げは92冊。多分。
まとめ
出品サークルを支えるをいろんなありがたい仕組みがあるおかげで、初参加にもかかわらず本来頭を使うべきこと(執筆、宣伝、コミュニケーション)にしっかり向き合えた素晴らしいイベントでした。
自分の経験を書籍にしたことで、知識が補強され、知りたいことも広がり、交友関係も広がりました。
当然また参加したいです。
歳をとると初めての経験っていうのがどんどん少なくなるんですが、苦労した結果得られたものはとても多かったので、新しいことに挑戦する気持ちが芽生えてきます。
興味はあるけど自分とは違う世界の話だと思っていたこと、例えば社外のLTでの登壇(は来月する予定)、メンターサービスの活用、ISUCONへの参加、ポッドキャスト、海外での仕事など色々と始めていきたいです、終わり。
以下、思い出の写真を貼ります。
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